グラフェンから波長可変な赤外発光を世界で初めて観測

グラフェンから波長可変な赤外発光を
世界で初めて観測

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@ 大学院工学研究院先端物理工学部門の生嶋健司教授の研究グループは、国立研究開発法人情報通信機構、アデレード大学、国立大学法人東京大学と協働し、磁場下のグラフェンにおいて電気駆動により波長可変な赤外発光を世界で初めて観測することに成功しました。この成果により、今後、新たな赤外光源の創出が期待されます。

本研究成果は、APL Photonics(11月1日付)に掲載されました。
論文タイトル:Landau-level terahertz emission from electrically biased graphene
URL:https://doi.org/10.1063/5.0233487 

背景
 遠赤外光~中赤外光帯域は、電波と光の中間に位置し技術的に未発達な領域ですが、分子や結晶の振動など多くの重要な情報を含む光の領域です。このため光学、電子工学、天文学、バイオ医療など多くの分野で遠赤外光~中赤外光帯の広い帯域で使用できる光源に関心が高まっています。しかしながら波長可変で連続発振する電気駆動の遠赤外光~中赤外光帯光源は未だ発展途上です。
 半導体では磁場下においてエネルギー間隔が磁場に依存するランダウ準位(注1)が形成されます。このランダウ準位を利用した発光(ランダウ準位発光)を用いて、磁場により波長可変な遠赤外?中赤外レーザーの試みは半世紀前から挑戦されてきました。しかしながら、通常の半導体で形成される等間隔なランダウ準位では電子―電子散乱が大きいため、赤外レーザーの実現は非常に困難であることがわかっていました。
 一方、炭素原子一層のグラフェンではランダウ準位が非等間隔であるため、グラフェン発見当初から中赤外レーザーの実現可能性が指摘されてきました。しかしながら、当波長領域の検出器が未発達だったため、ランダウ準位に起因したグラフェンからの発光を観測した報告はありませんでした。

研究体制
 本研究は、情報通信機構、アデレード大学、東京大学の協力の下、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@の研究グループ(大学院工学府博士後期課程の稲村文行氏、博士前期課程の上田弦氏(2022年3月修了)、大学院工学研究院先端物理工学部門 生嶋健司教授)が実施しました。

研究成果
 本研究グループでは、磁場下でグラフェンからの微弱な中赤外光を検出するための極低温光学系の開発に取り組みました。今回、本グループは量子井戸(注2)をベースとした高感度な検出器(電荷敏感型赤外フォトトランジスタ)を用いて、磁場下(5テスラ)における電気駆動のグラフェンから中赤外発光を観測しました。発光する閾値電圧の値から電流端子近傍の二つの対角線上コーナーから発光していることが示唆されています(図1)。
ランダウ準位発光では、ランダウ準位のエネルギー差に相当する波長の光が放出されます。グラフェンでは、そのエネルギー差は磁場の平方根に比例します。今回、磁場を掃引した分光測定によりグラフェンからの発光が磁場の平方根に比例して波長可変であることを実証しました(図2)。

今後の展開
 グラフェンにおけるランダウ準位発光が観測され、その発光メカニズムも明らかになりました。非等間隔なランダウ準位の特徴を活かし、磁場により波長可変な赤外レーザーへの発展が期待されます。


用語説明
注1)ランダウ準位
磁場下の半導体中において、キャリア(電子や正孔)の運動は円軌道を描きます。強い磁場下では、その円軌道の半径が量子化(連続ではなく飛び飛びの値となること)され、運動エネルギーも量子化します。その磁場によって生じるキャリアの運動エネルギーの量子化準位のことをランダウ準位といいます。磁場が強くなると、ランダウ準位間のエネルギー差も大きくなります。通常の半導体では等間隔にランダウ準位が形成されますが、グラフェンでは非等間隔なランダウ準位が形成されます。ランダウ準位発光では1番目、2番目等の指数を付け、上位のランダウ準位から下位のランダウ準位に電子が飛び移る際、エネルギー差に相当する波長をもった光が放出されます。ランダウ準位のエネルギー差が磁場に依存するため、磁場によって発光波長を可変にできる現象として古くから高い関心がもたれていました。

注2)量子井戸
電子を数ナノメートル程度の半導体層に閉じ込めた構造のこと。量子井戸内に閉じ込められた電子のエネルギーは量子化します。

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図1:グラフェン素子からのランダウ準位発光のイメージ

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図2:グラフェンのランダウ準位とそのエネルギー差で生じる発光の模式図

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? ◆研究に関する問い合わせ◆
 bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@ 大学院工学研究院
  先端物理工学部門 教授
  生嶋 健司(いくしま けんじ)
   TEL/FAX:042-388-7120
   E-mail:ikushima(ここに@を入れてください)cc.jskrtf.com

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